Statement

あおいうにの絵画の特徴は、ペインタリー(絵画的)で情熱的なタッチと荒々しいテクスチャ、激しい極彩色の色彩、豪快な構図、不定形なフォルムである。
それらは、抽象表現主義における「熱い抽象」に通じるところがあるだろう。
即興的にエスキースを取らず描くことでその瞬間をダイレクトに切り取ることを目指している。
あおいの作風が「熱い抽象」になった背景は、「信仰」と幻触」という2つのキーワードから説明できる。

あおいは旧統一教会の2世として生まれた。そこでは教祖が絶対的な権威として君臨していた。物心ついた頃には信者であることが当然であったあおいは、思春期になり自我が芽生えると信仰心が教祖から徐々に離れ始めた。そこで新たな信仰の対象が必要になった。それがあおいにとっては絵画である。よって、絵画を裏切ることはできない。

性や恋に対し厳格な統一教会は、信者の貞操を管理する宗教行事がある。
そこに対する抑圧と反動から、あおいはかえってそれら表現することが多くなった。それは、たとえ性や恋を描いたとしても地獄へ堕ちることはないという確認行為なのであろう。あおいにとって性や恋を描くことは地獄への恐怖を乗り越えるための儀式である。

2世としてのストレスから精神を蝕まれたあおいは、20代で入退院を繰り返した。メンヘラの特性を持つあおいであるが、メンヘラをテーマにした表現活動を行いつつも、病理をアイデンティティにはしていない。
その主たる症状は幻触をはじめとする幻覚である。皮膚感覚が曖昧なため、触覚を信用できないあおいは、絵の具に触れたり、身体を使ったり、筆ではない有機的な感触のものを使って描く。これは、現実における感触を認識し確かめたいという欲求から来ており、既成概念や絵を描く行為自体の再検討でもある。

表現主義的でペインタリーな調和した配色、線のリズム、画面を横断する流れるようなタッチが、あおいの内的な発露を手助けしている。
彼女の作品は、日本における「メンヘラ」の文化を新たな表現主義の文脈として位置付け、生々しい絵の具の物質感が、いま目に見えているものが真実とは限らないことを肉迫してくるだろう。